
瀬川裕美子さんから新作CDが届いた。「肥沃の国の境界にて」副題は〈線・ポリフォニー⇒…! ?〉で興味深い。私もタモリさんと同じ様に周縁部が好きだ。内容は2016年6月のリサイタルと同じでパウル・クレーの詩の朗読まで収められている。40年くらい前に通ったエリック・サティ連続演奏会の高橋悠治、高橋アキ、秋山邦晴を思い出す。ディラン専科の私にはウェーベルンもブーレーズもハンマークラヴィーアも難しいけれど斎藤輝彦さんのリサイタルで出会って以来の縁がうれしい。

鵯の季節なのかな、歩いていると繁く目に飛び込んでくる。こういう風に撮るとギリシャ神話から抜け出してきたようにも見えるが日本以外には珍しいらしく英名brown-eared bulbulはぎこちない。

事務所の南東界隈はかつて「十二社」と呼ばれた歓楽街の周縁部でその名残の古い木造家屋が裏街には残っている。飲み屋のカウンターの後ろに密かな階上への階段があるアレだ。お気に入りのランチスポットのひとつ「志奈川」もソレを改装した2階建てで歴史は古い。暖簾の先のガラス戸をがらっと引くと懐かしい木の空間が迎えてくれる。旧いレコードプレーヤをはじめ時の流れをくぐりぬけてきた小物も置かれている。ジャズが控えめに流れ食器はArabiaが中心。そんな雰囲気の時が止まったような空間では私は例外なく独りだが残りの3卓は3、4人組で埋まっていることが多い。彼らの交わす会話はモノトーンに近い空間に溶け込んでいつもは耳に聴こえることはないのだが或る日「だんこう」という言葉に耳を起こされた。初老の紳士がかつて団交の場にいたことがあると淡々と語っているのだ。しかも彼の後ろに重信房子がいたという。10回もパクられたけれど表立たずに密かに生き延びてきた話に年下の男性と女性も平然と相槌を打っている。秋田明大、加藤三兄弟、横浜国大という固有名詞も聞こえてきて久しく無沙汰をしていた過去の記憶がよみがえってきた。できの悪いテレビドラマの場面のようだが時間は50年近く逆戻っていた。あの頃二十歳になる直前にはまだ世の中は騒然としていて当然のことのように自分たちの力で世の中は変わると思っていた。催涙弾を破裂させるための火薬の臭いをいまだに鮮明に覚えている。あの頃があったから今があるのだろう。写真は赤い実に飛び群れるたくさんの鵯。最近は鵯とも仲良しだ。

洗足池畔では陽射しを透き込む常緑樹もきれいだ。このただの緑に見える写真のなかほどには鸚哥も写っている。番いでも群れでもないことからしても過日紅梅の中に認めた鸚哥と同じ個体なのかもしれない。こうして環境に溶け込んでしまえば予期せぬことも起きにくいだろう。

打合せ前に少し時間があった日曜日の朝に洗足池を北側から巡ったのは名案だった。さまざまな水鳥の故しれぬ営みをゆっくり眺めることができた。飛んでいる鳥を手持ちカメラにおさめるにはひとしきりの静寂が必要なのだ。この写真とは段違いに躍動感のある美しい写真がジャケットに使われた1972年のアルバムReturn to Foreverには写真そのものの軽快で爽やかな音があふれていた。そのなかでもとりわけ印象的だったChick Coreaが弾くFender Rhodesの響きにこの写真を撮った翌日に出会ったのは何かの縁かもしれない。オペラシティでのピアノトリオに誘われていたのだが知らない演奏家だったのとホールでジャズという取り合わせに馴染めなくて乗り気ではなかったのだが直前になって聴こうと決めた。オペラのホールの地下にあった固定席のない直方体の箱は型を払拭した包容力のある建築。ピアノ仲野真世コントラバス池田芳夫ドラム馬場高望の音楽は豊かで刺激的でじっくり3時間音楽に浸り込んだ。Fender Rhodesにさまざまな鳴り物と弓弾きのコンバスが絡む音世界がとりわけお気に入り。なにごとも先入観で決めつけてはいけないということですね。程近くのlunetteに席が空いていて音楽の余韻を日本のワインに浸す幸せな時間も楽しみました。

3月31日に発売されるBob Dylanの3枚組CDのタイトルと曲目が発表された。録音のアル・シュミットが6月17日のインタビューで語っていたとおり30曲がおさめられていて予想どおり昔の唄のカヴァーだ。Stormy Weatherだけは2014年の録音リストにも入っているが2016年に録り直したのかもしれない。30曲のうち3曲は去年のライブで1曲はTony Bennettトリビュートで唄われている。ミュージカル「南太平洋」のなかの私のお気に入りThis Nearly Was Mineが入っているのはうれしい。引き続きしばらくはロマンチックな気分でいろということだな。ほんとうに心地よく歌ってくれているはずだからそれも悪くない。こちらの期待するようには行かないということはもうよくわかっている。曲の長さからするとどうみてもCD2枚分だがおそらくLP3枚組がアナログ一発録音に拘るボブにとってのあるべき姿なのだろう。タイトルはTriplicate。3枚目(3匹目のどじょう)、3枚組。ウイットとしてできがいいとは言えない。2月1日になってシナトラが1980年にTrilogyという3枚組を出していたことがわかった。これだな。Braggin'以外の29曲がシナトラであることもわかった。すでに
プレイリストになっている。写真はほぼ同じレベルのこじつけでdos gatosのスペインチーズ3種。