1月20日houseM。福井通さんのスライドレクチュア「異空間へのヴァーチャル・トリップ 聖と俗のカオスモス」その1。日本とイスラム世界の建築空間の対比からそれぞれの特質を明らかにしようとする試みは興味深い。一神教であることがイスラム空間の特質に大きく影響しているという指摘に納得。福井さんが挙げるイスラム空間の特質が近代建築にも通用しているのが面白い。そう言えばキリスト教も一神教だ。レクチュアの後は素晴らしい中庭空間で焚火を囲んで中国茶菓をいただきながら談論風発。いい建築だ。ところがたまたま出席されていた元駐シリア大使の元外務省官僚から豊富な実体験に基づくイスラム教観の提示があって場はひととき不穏な空気に包まれた。イスラム教の敗色濃厚だったのを救ったのは野沢正光さんの洒脱な穏やかな反論や北山さんからのwaqfというイスラム世界の共有概念の提示など。キリスト教もイスラム教もそしてユダヤ教も一神教はどれも良くないと私は思う。
2月1日HAGISO。四方謙一個展symbiosisレセプション。築63年のHAGISO空間と四方作品の相性がよかった。四方さんは師事している野老朝雄さんと同様に建築出身で建築家の森純平さんとも旧い仲。その野老さん森さん四方さんのトークは楽屋落ち的な部分が掴み切れず私は消化不良だったが、少なくとも野老さんのスライドはあっけにとられた。四方さんは作品を感性だけでは創れないのは彼にまだ残る建築の所以なのではないかと勝手に納得した。森さん四方さんに加えHAGISOの宮崎さんも1982,3年生まれ、私より30も若い。3人とも建築の枠を大きく超えてはばたいている。これらの新しいムーブメントが旧い街によく似合っていると感じた。宮崎さんに教えてもらって行った魚貝三昧「彬」の美味しい酒が谷根千ぶらりを締めてくれた。 写真は四方謙一waft eyes 2016の部分とその影。作品が生み出す影に強く惹かれる。自然光が加わった時に遷ろう光の下ではまた別の魅力を発揮するに違いない。
15年のあいだには変わらないこともあれば変わったこともある。「居住」で教え始めた頃にはラブラドールのフクを飼っていて犬大好きだった私は、今は犬がいない[bigdog house]で暮らしていて、そのせいばかりではないが最近になって鳥が好きになっている。だから京成大久保の2つ手前の谷津駅から10分も歩くと谷津干潟という鳥の楽園があるのに気づいたのはつい最近だ。谷津干潟、三番瀬、野鳥の楽園、葛西海浜臨海公園、鳥見スポットが目白押しだ。この方面はこれからますます身近になって行く予感。これも「居住」の縁かな。谷津干潟の美しい枯葦のなかにはたくさんの鳥が潜んでいるはずなのだが姿は私には見えない。
15年間の居住の縁のなかで多くの人と出会った。最近はずっと卒業生がスタッフとして事務所を支えてくれているし、人生を変える大切な出会いもこの縁のなかに生まれた。講師陣が集まる楽しい会がこの縁をより豊かなものにしているのだろう。後半はfbやインスタを触媒にして情報交換の量が飛躍的に増加した。人が生きていく元は結局人との繋がりなのだ。来年度から講師陣に加わる田邊曜さんは奇しくも事務所OG。引き継ぎも兼ねて最後の授業の講評会にクリティックとして来てもらった。うれしいバトンタッチ。慣れ親しんだ大久保の街でランチを食べることはもうないだろうと思うと、わけもなく感傷的になって、それで選んだ最後の午餐はあえて二週続けての「ペペルモコ」のオムライスだったのだが、打ち上げにも「ペペルモコ」を選んだので滅多にない昼夜連チャン。15年間の思い出が浸みこんだ街なのだが今住んでいる八雲からは相当に遠いのでもうこの店で食事をする機会はないだろうと思うとしみじみと名残惜しい夜になった。
1月29日は日大生産工学部非常勤講師としての最後の授業だった。2004年に谷内田さんに誘われて居住空間コースを教え始めて15年になる。建築設計は他の建築家とペアを組んで教えることになっていて学生の設計を講評するなかで自分自身が学ぶことも少なくない。年を経るに従って学生たちの立ちどころが見えやすくなってきたのは私の息子と娘が同じ年頃を通りぬけて行くのを体験したからかもしれない。自分で言うのもどうかとは思うが教え方は15年間でかなり成熟したと思う。後半は通年で週一日通っていたから大学で教えることが日常の一部になっていて、実はこの3月は意外に大きな「切断」であることは確かなので、去年の後半くらいから心の準備を徐々に進めて来た。卒業後も大学でのイベントなどを訪ねる機会はあるはずなので街に縁がなくなってしまうわけではないと自分に言い聞かせている。
最近届いたお気に入り3。福澤克雄監督の「七つの会議」主題歌にDylan のMake You Feel My Loveが使われた縁でDylanのラブソング集が発売された。1997年発表の終末観が色濃いアルバムTime Out of Mindの中でこの曲だけ曲調が異なっている。CDとは違う曲も入った4曲入りの青色アナログ盤も出る。どちらにも入手しにくい曲が混ざっているのだけれど私のライブラリーにはすでに揃っているから買う必然性は無いのだが、やはり欲しくなってしまう。レコード会社も憎いところを攻めてくるから、余所で無駄遣いをしないように常日頃から心がけていなくてはいけない。
最近届いたお気に入り2。高校で習った歴史は世界史と日本史に分かれていた。キリスト教を基盤とする西洋史観と国家を中心に据えた国粋史観はほとんどかかわり合いを持たない。どちらも都合よく脚色されていることだけは確かだ。年号と固有名詞を暗記するのにはどうでもいいことだったが、世界を正しく理解するためには役立たない。朝日新聞の書評で知った南塚信吾「『連動』する世界史」は岩波書店の「シリーズ 日本の中の世界史」7巻の1冊。今までにない視点が展開されていることを期待して読み始めた。出展を明示しながら進められる学者の論考は読み易いとはいい難いが私には興味深い。楽だからとAmazonで買ってしまったのはいかがなものか。