アコウ

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小値賀ぶらぶら 5。植物や鳥には細かい地域差があってその分布は少しずつ容態を変えながらも緩やかにつながっている。小値賀や上五島で初めて目にした巨木「アコウ」は山口県高知県あたりより西から台湾、東南アジアに自生する。濃い緑の葉が枝を広げて生い茂る様が独特だ。沖縄の集落で独特の並木を形成する「フクギ」の分布はもう少し南よりだがどこか似ているところがある。対馬、五島、長崎で見られる「ヒトツバタゴ」は朝鮮、台湾、中国に分布する。このような地域性の強い植物が好きだ。親潮・対馬海流の大きな流れを基底とした植生のつながりは文化の連続性を暗示している。福江島では沖縄や朝鮮とのつながりが感じられたが、小値賀と朝鮮は俄かには結び付かなかった。一方、福江島の名物「鬼鯖」はここでは影も形もないし、上五島の「紀鮨」は中通島のしかも一集落奈良尾だけの名物なのだそうで、近代以降の島嶼間のつながりは意外に希薄なのかもしれない。一筋縄で括り切れないところが面白い。南隣の上五島に29も教会があるのに比し小値賀島には教会は見うけられない。地勢が平坦であるからという説明で簡単に納得してしまってもいいのだろうか。小値賀島の東岸にある「地ノ神島神社」は対岸の野崎島の「沖ノ神島神社」と対をなしている。あいだを遣唐使が通ったのだそうだ。その野崎島には神社を隠れ蓑にキリシタンがいたそうで無人島となった今「旧野首教会」が残されている。豊かな自然がつくる美しい景観の中に看過できない現代の痕跡もある。1981年にできた上五島空港と1985年にできた小値賀空港がともに2006年から休止しているのだ。おいしいビジネスをして税金を中央に上納する役割だけは果たしたということだ。野崎島の真ん中の山がくびれたところには海岸から46mの高さを有するダムが2001年に造られている。小値賀島側から見えるダムの斜面は芝で覆い隠されてはいる。このダム湖の水が海底パイプを経由して小値賀島の灌漑用水になって島の生活が衛生面で改善されたというから、ことの良し悪しはよくわからなくなってしまう。思わぬことまでいろいろと考えさせられる実り多い旅、ということにしておこう。fbのmichio kinoshitaアカウントにほかの写真を数枚アップしています。
ブログを読んでくれた「おぢかアイランドツーリズム」の方からメールをいただいた。
「小値賀島にも1つだけ教会はございます。ただ外観は普通のお家で、中に祭壇がありマリア様は野崎島の教会のものです。小値賀にもごくわずかですが信者さんがおり、日曜日にはミサが行われています。」とのことですので本文を修正しました。

臨界

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[laatikko] 「座高円寺」と続いた建築の一日の締めは北山恒さん。「モダニズムの臨界」出版に合わせた藤原徹平さん中川エリカさんとの対談。本は読み応えがあり過ぎてまだ読了していないから北山さんの方向性に共感するとだけ記しておこう。余談だが、臨界というのは異なる状態の境目のことで北山さん的には「切断」なのだろうが、核分裂連鎖反応に関してもっぱら使われる単語であるために、よくわからない含みがある。不思議な言葉だ。出版の仕掛人である真壁さんのネーミングのようだが、北山さんの論考集に相応しい刺激的なタイトルだと思う。写真は「洗足池の集合住宅」ペントハウスの屋内と屋外のゆるやかな境界で「臨界」とは関係がない。鉄壁だったはずの容器の外で核物質が臨界状態にあるというありうべからざる事実はわれわれの記憶からほとんど消えてしまいつつある。

結界

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建築で始まった土曜日は伊東豊雄の「座高円寺」へと続く。この市民劇場の劇場と街との結びの領域には巧みなしかけが施されていて、ホワイエ+階段がみごとに街につながる場になっている。光が神々しいから結界のようでもある。このしかけは「臺中國家歌劇院」にも援用されているから、そこにかかわったMs.Changにとっては感慨深かっただろう。陽が射していたせいか私にとっても以前来た時以上のインパクトがあった。こういう光は写真にとってはありがたい。写真が得意な彼女はiPhoneに魚眼アッタッチメントを取り付けていいスナップを残してくれた。シャッター音が鳴るのは日本だけだと言っていた。彼女が改札を出る時に取り忘れた3day passが戻ってくる可能性はゼロに近いと思いながらも駅員に相談したら、忙しいなか手際よく捜索してくれて、思いもよらず戻ってきた。これも日本だけだのことだろう。

境界

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photo by Lingyen Chang

伊東豊雄の「臺中國家歌劇院」見学でお世話になったMs.Changが東京に滞在中なので[laatikko]に案内することにした。街に対して曖昧な境界で接している小住宅は台中在住の彼女にとって興味深かったのではないかと思う。ジェレミー・ステラの「東京の家」のテレビ取材や展覧会でお世話になったクライアントには事務局から託されていた2冊の書籍もお届けすることができた。家が出来てから家族に加わったお嬢さんがもう小学生になっている。ステラさんの写真は都市の一部として家を捉えていて、一目瞭然というわけにはいかず、彼女が肝心のページを探し出してくれたところ。孫のようだ。

笛吹郷

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小値賀ぶらぶら 4。かつて海の交易や鯨漁で栄えた小値賀の豊かさの片鱗が今の笛吹郷にはまだある。空き家となって廃れてしまいかけていた建物を「古民家」として活かすことで街が息を吹き返しかけているのではないかと思う。明治後期に建てられた商家跡を改修した地域交流スペース「商家尼忠東店」も同じ流れにあるのだろう。街並みに溶け込んだ開けっ放しの場は旅行者にも開放されていて、私たちが残った食材でつくった「島弁当」を食べていると、中学生がぱらぱらとやってきて、テレビをつけてゲームをして彼らなりの交友を楽しんでいた。管理者がいないのだからのびのびとしている。その昔卓越した判断力で小値賀の地域繁栄に貢献し造り酒屋などで財をなした小田家の屋敷跡は「歴史民俗資料館」に生まれ変わっている。展示はかつての小値賀の港が東シナ海全域に深く繋がっていたことを物語っている。柳田国男によって「困窮島」と命名された島特有の制度についてはここで初めて知った。小値賀の17島のひとつ大島で享保の飢饉の頃から続いていた制度で、大島の最困窮世帯を隣の宇々島に移住させて税制上の優遇措置を与えて立ち直らせるというもの。群島としてひとつの社会を形成している小値賀の物語に触れて、こまごまと錯綜する狭い路地歩きがよりいっそう味わい深いものになり、何匹もの街猫にも出会って、もう少しでも深く街を知ってみたいと思い始めた。街を訪れた人がその街の暮らしぶりや歴史や自然に触れてその街に興味を抱くようになることが街の未来にとってたいせつなのだと思う。そういった意味で「おぢかアイランドツーリズム」の試みを評価したい。fbのmichio kinoshitaアカウントにほかの写真を数枚アップしています。

172cm×2

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朝ドラの「ひよっこ」にはまり続けている。具体的なモデルがいないゆえの自由な物語展開が功を奏しているのだろう。ひとの暮らしぶりの機微を細やかに描く温もり感は終始変わらない。その状況の中で快活ながらどこか微妙な陰りも感じさせる時子さんを私は好きになっている。そのことをインターンシップの学生に話したらすかさずスマホを調べて13歳年上の俳優?Aとの仲を噂されていると不愉快そうに教えてくれた。時子さんは今はツイッギー・コンテストに挑戦していて懐かしいミニスカートが172pの長身にぴったりと似合う。偶然、その学生もクラスで圧倒的に目立つ172pで歳も1つ違い。そのAのファンのようだが、ガセとのネット情報も少なくないから、気にしないように。写真はスタジオ近隣で随一のラーメン「製麺rabo」で一緒に食べた「支那そば」「塩ラーメン」。これで今月のラーメンは終わりだ。こんな旨いものを自由に食べられない不条理。

3weeks @ 3years

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北山恒さん谷内田章夫さんと3人の「ワークショップ」だったころ、勤め人にはできないことをやろうと、3人が交代で1年に1人ずつ4か月の旅に出た。日常を離れ建築に浸り結果をスライドで報告し皆で共有する。長旅の奥深い魅力に気づいた私たちはその後1month @ 3yearsのルールをつくりスタッフにも適用した。3年務めると有給の1か月海外休暇をとってそれで卒業する人もいた。刺激的なチームに育って行った。何故か30年近く経ってふとそのことを思い出し今のスタジオで3weeks @ 3yearsを実行しようと思い立った。昔に戻るためではなく新しい自分に変わって行くためだ。たまたま洗足池の集合住宅で一区切りをつけたスタッフが早速旅に出る。とてもうれしい。昔は旅立ちの前夜に皆で壮行会を開いて飲み明かしたが、時代は変わり「良い旅を」と声をかけただけで送り出してしまった。昨日は洗足池の集合住宅の雨で遅れてしまった竣工写真撮影で、私一人で立ち会って、いつもお世話になっていることがよくわかった。写真は現場近くの「ふじ食堂」で2人で飲んだ記録。昼でも誰かが酒を喰らっている町の食堂の居心地の暖かさは侮れない。

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kinoshita
木下道郎 ・ 建築家
詳しくはworkshop-kino.com

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