昔、十二社(じゅうにそう)と呼ばれていた界隈の裏手に私の仕事場はあります。大昔の「はっぴいえんど」のLPジャケットにある「ゆでめん」はこの近くにあったのだそうです。どこの駅までもほどほどに遠かったこのあたりは大江戸線の西新宿五丁目駅が出来てから急速に変わり始めました。新しいビルが次々に建った表通りはどこか余所余所しいのですが、一歩中に入った路地裏には軽い憂いを含んだ味がまだ残されています。野良ネコもたくさんいます。熊野大社も近くにあって町内会の祭りはなんとか続いているようで、昼食のそぞろ歩きでこんな情景をカメラにおさめました。拡張を続ける西新宿の高層ビル群がもうすぐ向こうまで迫ってきています。さみしいなあ。
ここがクウのお気に入りの場所。あられもないポーズですが、手を挙げているように見えなくもありません。
[laatikko]の「建もの探訪」撮影が近隣の学園祭の影響で急遽延期になって、ぎっしりつまっていた予定にふっと空白ができました。おかげで動物たちと一人の
[doghouse]でゆっくりと音楽を楽しんでいます。物書きのついでに聴くのとは聞こえ方が違います。もう昼から片手にワイン。MilesのSketches Of SpainのLegacy Editionに続いてPPMのCarry It Onは2枚目を聴いた後、1997年に亡くなったTownes Van Zandtの作品集Poetにはまりました。Dylanのお気に入りと言われる彼の名曲を私のお気に入りのNancy Grffith、Lucinda Williams、Emmylou Harrisをはじめとする面々が見事にカヴァーしています。もの思う秋にぴったりの演奏が続きました。
[all'aperto]に寝転んで空を撮ってみました。両側の棟の庇が視野に入って枠になりました。この狭さがちょうどいいのだと思います。シマトネリコの緑もきいています。
定席で寛いでいるフク。馬の干し肉がよほど気に入ったらしく、空き袋をいつまでも大切にしています。ハヤがこれに近づくとこの時ばかりは怒ります。膀胱炎が原因だった頻尿はかなりおさまってきました。相変わらず朝起きると一緒に家の外まで直行していますが、量は減っているし、出ないこともあります。とても元気だけれど、歳だからからだは少し細くなっていて首輪が緩くなっています。
ロンドンではレストランにも行きました。
Zaika。新しいスタイルのインド料理です。お店お薦めのJugalbandiは懐石料理のように少しずついろいろなものが美しく盛り付けられて出てきます。スパイスの個性によって素材の持ち味を活かした料理。トマト風味のジェラートがふと混ざっていたりする斬新さもあります。サフラン・ライスと供されたHerdwickラムのKoh-e-Roganjoshはインドで最も感動したマトン・カレーを彷彿させる味でした。デザートを含めての6皿にそれぞれお薦めのワインがグラスで用意されているのも気が効いています。シャンパーニュに始まりMas Mudigliza Mauryという初体験の赤のデザートワインが締め。シシリー、レバノンのBekka Valley、オーストラリアのBarossa Valleyとワインの産地は国際的です。そう言えばワイン会社の人が市場の動向を探るのにはフランスではなくロンドンに行く、と言っていました。フランスでは外国産のワインは絶対飲まないだろうし、ボルドーではボルドーしか飲まないし、そういう意味でロンドンは東京と似ているわけですね。短い体験のロンドンに限ってのことではありますが、ワインは東京以上にポピュラーだし、パルメジャーノの塊が並んでいるチーズ屋もあったし、「イギリス不味い」は過去の事のようだと感じました。
朝の散歩で見つけた朝顔。もう葉はほとんど落ちてしまっていて、花の凛とした青がどこか淋しさを漂わせています。やっと新しくした1000万画素携帯で撮りました。カメラとしてもイケるかも。「おとうさん」携帯はSuicaが入らないので断念しました。
この突然出現した五連休はいろいろとたまっていた仕事を片付けるにはもってこいです。幸い犬猫以外は全員が「お父さん」から自立してしまっているので、私はたまっていたもろもろの執筆作業に専念することができました。いい機会なので090909発売以降手元にありながら聴く機会がなかったBeatles Mono Boxを筆が止まらない程度に耳にしつつ、[doghouse]での仕事を楽しんでいます。音楽雑誌で取り上げられているような細かいことは正直なところよくわかりませんが、もともと意図されたものにもっとも近い音をやっと聴いているということなのでしょう。録音された当時はモノ・ミックスのほうに重きが置かれていて、ステレオ・ミックスにはメンバーが立ち会っていなかったというエピソードが紹介されています。写真に撮ったSgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Bandはモノラル盤を聴くのは初めて。印象がかなり違います。CDは「紙ジャケ」と呼ばれるLPジャケットのミニチュアに収められています。この手のミニチュアは我が国が最先端を走っているらしく、私が入手したイギリスからの輸入CDボックスの中身は日本製でした。付属の印刷物、レーベル・デザイン、紙袋、ジャケットの組み立て方にいたるまで英国発売初回盤を忠実に縮小再現する細やかな仕事は、日本が他の追随を許さない圧倒的なレベルなのでしょう。盤を保護する半透明袋とジャケットを保護するビニル袋は日本固有の気遣いです。ビニル袋のシールの粘着力の弱さも完璧。誇らしく思う反面、音楽そのものとは直接的には関係がないことに、これほどまでの情熱を傾けさせてしまう我が国の音楽市場に、ちょっと不安を覚えてしまいます。不思議なことに英国経由の逆輸入盤の価格は日本発売盤のおよそ65%でした。解説と日本語訳が余分に付いているらしいのですが、そんなものいらないし、この差額は大きいですね。早くも売り切れとの噂に尻尾が立っています。
沖縄に詳しい伊礼さんから、ゴーヤーがきれいな黄色に変わる話を聞いて、暫く厨房に置いて鑑賞していたら、実が弾けて真っ赤な種が姿を現しました。papaya yellowですね。来年はこの種を蒔くといいという話もどこかで耳にしました。[doghouse]のゴーヤーも秋になって成長が止まり、枯れた葉が見苦しくなってきていたので、文章書きの合間に最後の収穫をし、蔓を撤去しました。で食卓には定番のSPAMも登場。Wikipediaによれば、shoulder of pork and hamあるいはspiced hamから生まれたと言われる商標が、モンティ・パイソンを経由して迷惑メールの呼称となったのだそうです。納得。Specially Processed Artificial Meatがぴったりかも。
Mary Traversを偲んでPPMを聴きました。一枚目のアルバムPeter,Paul & Mary。写真のLPではなくCDで。私が最初に買ったPPMのLPはこれではなく日本編集の「ベスト・オブPPM」でした。まだ数枚しかLPを持っていない頃で、毎日毎日あきることなく聴き続け、父や母までが曲を覚えてしまうほどでした。東芝音工の今は懐かしい赤い透明の盤にWarner Bros.のゴールドのラベルが貼られていました。入っていた16曲の中に「風に吹かれて」「くよくよするなよ」「時代は変わる」の3曲のディラン作品が含まれていました。これが私とディランとの出会いです。ディランとPPMそれぞれのマネジャーでアルバムPeter,Paul & MaryのプロデューサーでもあるAlbert Grossmanの思惑通り、これがきっかけとなって、ディランへの道にはまりこんでしまうわけです。歌詞も完璧に覚えましたから、英語との出会いとも言えます。解説の中村とうようの音楽雑誌はいまだに愛読しています。Peter,Paul & MaryのロゴのデザインはMilton Glaser。グラフィック・デザインとの出会いもここでした。「マリーさん」ありがとう。
Requiescat in Pace
お隣と共同購入のサンマが届きました。きらきらと美しい姿をしています。ダツ目、サンマ科、サンマ属、Cololabis saira。sairaは日本語の古名のサイラ(佐伊羅魚)から来ているそうです。Pacific sauryという英名も耳にしたことがありませんし、我が国特有の魚なのかもしれません。しあわせ。先ずは刺身、メインは焼きで、もちろん大根おろし添え。サツマイモご飯がぴったりはまりました。おいしかった。持つべきものは隣人、です。
昔からあるLondon Bridgeではなく2000年にできたMillennium Bridge。
サックラー・ギャラリーと同じノーマン・フォスターの設計です。構造的に安定するまでに紆余曲折があったようですが、歴史の積み重なりとの折り合いの付け方がいいと思いました。セント・ポール大聖堂とテート・モダンをつなぐように、テムズ川をまたいで軽やかに架かっています。
正面に見えるのがセント・ポール大聖堂。
橋詰がテート・モダンの前庭に位置しています。
京都では白川のほとりを歩きました。川端に遊歩道がなく建物が川面に直面しているところも多々あってそれぞれ個性的な情景をつくり出しています。釣りをしている人もいれば、犬と水遊びをしている人もいました。事務所の近くを流れる神田川とはずいぶん趣が違います。
飼い主の投げたボールを追って泳いでいる犬です。フクはレトリーバーなのにこれは嫌がるでしょう。
私がBob Dylanを聴き始めるきっかけとなったPeter,Paul & MaryのMary Traversが72歳で亡くなりました。高校一年の時、学園祭のPPM番組の台本に「マリーさん」と書いて「さん」を削られたことを思い出しました。You Tubeで彼女がMama CassとJoni Mitchellと一緒に歌う
I Shall Be Releasedを発見。今まで聴いたこともなかった珍しい1969年の映像です。
マリーン・スタジアムで西武ロッテ戦を観戦。虎がらみではないので緊張感はありません。ブルゴーニュの軽い赤にクラッカーの付いたKiriのチーズ・ディップという案が、野球はビール以外考えられないと、一蹴されてしまい、私的定番の万世カツサンドで妥協しましたが、現地調達の葱チャーシューと胡瓜棒が当りで、かなりの満足でした。軽く湿り気を帯びた海風を頬に感じながら、やっぱり野球はアウトドアに限ると思いました。ドームはダメ。息詰まるとまでは言えないけれどもなかなかの投手戦は9回が始まったところまでは同点。この時点でセリーグの3試合すべてが同点というスリリングな展開に観戦は大忙しでした。虎が読売に延長の末勝利したうえ、熾烈な3位争い相手のヤクルトと広島が負けて、ほとんど完璧な一夜でした。お見せしたい写真があるのですが、またの機会にということで、薄暮の野球場です。
ツルレイシ。ゴーヤのことです。結局[doghouse]でも豊作。レモンの木にまで蔓をのばし、20個以上の実がなりました。おいしい。たくさん食べましたが、たくさんお裾分けしました。日蔭はできるし、陽に透けた緑はきれいだし、美味しいし、楽しいし、こんなにいい植物はありません。
幸せな時間がクウのまわりで過ぎていきます。「うるさい仔犬がいても、こわいモモちゃんがいても、私には自分の場所があって、ニヤァと言えば、おとうさんはなんでもしてくれます。」
「京都坪庭拝見」に載っている「本堂と書院への回廊に囲まれた椿が3本植えられた中庭の写真」に惹かれてやってきましたが、中庭は特別公開時でないと拝見できないとのことでした。けれども山門をはじめなかなかの佇まい。来てよかったと思いました。
犬と散歩する人のことを英語ではdogwalkerというのだそうです。ロンドン中心部の住宅街の朝の情景。三鷹の住宅街あたりのほのぼのとした感じとは違います。服装と犬がぴしっと決まっています。私が犬と歩く時にいつも持っている
「トラカムバック」のようなバッグは見当たりません。用を足すような事態はありえないのでしょうね。
上がチャーリー・ワッツだとすれば下はメリー・ホプキンといったところ。さすがにかっこいいなあ。
京都では庭めぐりが楽しみのひとつ。今年は水野克比古さんの「京都坪庭拝見」を片手に宿のある岡崎から銀閣にかけてを散策してみました。建築マップに載っていなかった西雲院を探し求めて右往左往。残暑の中、大汗をかいてなんとか辿り着きました。冷たいお茶の心遣いがからだに浸みました。
お隣の真正極楽寺真如堂でのショット。モミジが白壁に映えていました。秋の陽ざしですね。
屋形船巡りの水郷とは反対の旧市街には八幡堀があります。残念ながら手漕ぎ舟はこちらには回れません。堀の周辺には古い建物がたくさん残っています。
日本のあちこちに残る、堀のある街。いいですね。
こんなかわいいオブジェを見つけました。ネズミでしょうか。
お手本にさせていただいている伊礼智さんのブログ
irei blogには同じ旅で撮られた詩情あふれる写真が紹介されています。そちらも合わせて近江水郷の魅力をお楽しみください。
お隣の斎藤さんがイタリアから帰国。生ハムの塊やチーズと共に[doghouse]に遊びに来てくれました。たまたま長男の基も家にいたので、二月の二十歳の誕生日以来お預けになっていた1989年のバローロをあけました。お祝いは賑やかなほうが嬉しいですね。素晴らしいディナーになりました。
ヴォーリーズ見学がてら近江八幡の水郷で屋形船を楽しみました。同行の渡辺康さん撮影のパノラマ写真が宴の風情を的確に伝えてくれています。鍋は近江牛のすき焼き。お酒は地元の富鶴のワンカップをもちろん常温で。
photo by Yasushi Watanabe
船頭さんの櫂さばきで舟は葦原で囲まれた水面をすべっていきます。
photo by Tatsuya Iwai
野焼きの煙。秋です。水の上を渡る風が涼を運んでくれます。すき焼きをたいらげた後は、ゆったりと時が過ぎて行きました。
水郷は近江の穀倉。舟は縦横に走る水路を進んでいきます。茄子や稲穂が眼前をよぎります。収穫が近いようです。
米原から近江八幡に向かう途中、近江商人発祥の街、五個荘を訪ねました。ゆっくり散策したい街並みを小一時間で駆け抜ける旅程になってしまったのが残念。
蔵の外壁に使われている木材は嘗て舟で使われていたもの。写真右下のくもりはレンズの汚れ。
近江商人屋敷で目にとまった狸の置物。他のところでは見られない独特のモノで、近くの信楽のものではないそうです。誰かを思い出すなぁ。
甲府まで行ったついでに、一駅足を伸ばして、竜王駅を見てきました。安藤忠雄さんの設計です。細かいところまで律儀におさまっていました。普通の設計事務所がこういう仕事をするようになればいいのにな。
ロンドンはちょうどイースター休暇と重なっていて、ウィンドウ・ショッピングを楽しみました。ここはFortnam & Mason。開いていましたが、おみやげに買って帰りたかった下のほうの箱は売り物ではありませんでした。
イースターと言えばウサギです。これは靴屋。かわいい、を超えています。
こちらは骨董品屋。いい趣味です。
薄曇りの[doghouse]で
asjの取材。昔馴染みの某建築雑誌OBコンビでした。降らなくてよかった。いつものことながらフクとハヤが客演。クウは左側の部屋で眠っています。みんな、ありがとう。
photo by H.Ueda
写真は西沢渓谷ではなく新宿中央公園の人工滝。こうやって周りを消去すれば、なんとか絵になります。ほぼ真昼の撮影。これには訳があります。
コンタクトレンズが不意に無くなってしまっていたので、昼休み前に新宿東口の店に向かいました。新宿駅との間は雨でなければおよそ17分の距離をいつも歩いています。心身の健康のためでもあるけれど、大深度狭小地下鉄に乗ると最短で10分、間が悪いと20分近くかかる、という交通事情もあります。診察券で営業日・時間を確認して、気持ちよい秋空の下、軽く汗をかいて目的地に着くと、な、なんと「棚卸のため16時まで休業」。めったにはない「不運」に遭遇してしまいました。朝は開店が遅すぎ、夜は閉店が早すぎて、通勤途中には寄れないものだから、忙しい時間の合間になんとか駆けつけたのに・・・。と呆然としていると、向かいの中村屋から「インドカリー半額」の呼び声。新宿移転100周年を記念して今日だけの特別イベントに遭遇したのでした。インドで味わったどの料理からも遠く離れているけれども、洋食屋のカレーとは一線を画した懐かしい「カリー」です。粉チーズが付いてくるのも独特です。開店当時の新宿の地図や写真も見てきました。このために歩いてきたと思えば納得。戻る道すがら人工滝の涼感をカメラに収め、気を引き締めて、滞っていた原稿をさかさかと仕上げて、夕刻にまた往復。結局一日三往復ということになりました。西沢渓谷由来の軽い筋肉痛が足の存在感を昂めてくれています。
勝沼にはもう何度も来ていますが、朝6時を体験するのはこれが二度目。うっすらと盆地を覆う朝靄の向こうの山並みの重なりについ惹かれてしまいました。