
居住空間コースのマスコット渡辺教授は「未来工房」でのモノづくりが好き。年末にはHeartlandの空壜を800℃で焼成したオブジェをいただいた。ガラスにエンボスされたラベルがセンターからズレているのも味わい深い。上に乗っている透明の犬指輪も彼の作品。ありがとう。居住の人の繋がりも大きいな。

新年。つちのえいぬ、音読みはぼじゅつ。ほかならぬ戌年。私が犬好きになった理由を谷内田さんが暮れのsometimeで正確に語ってくれた。大学1年の時に始めた家庭教師先で出会ったアフガンハウンドのボンちゃんは教えているあいだ優雅に私たちの傍にいた。それが始まりだ。今年の年賀状を仕切ってくれたスタッフが校了直前に犬は入れなくていいのですかと気遣ってくれたが、必要な犬は手で描くことにした。戌年とは無関係だが仕事納めのあと少し時間ができてアレックス・カーの「犬と鬼」を読み終えた。去年
小値賀を旅したきっかけをつくってくれた「里山と古民家を愛する親日家」がただ者でないことが分かった。痛切な日本社会批判である。「モニュメント派の建築家」もやり玉に挙げられている。官僚が諸悪の根源であることをはじめとして我が意を得たりの内容なのだが、日本の伝統のなかにある「トータルコントロール」精神が災いしているという指摘は新鮮。親日家が日本をどんどん離れて行っている現状も危惧されている。彼自身は祖谷を始まりにまだ豊岡に留まってくれているようだが、近年はバンコックも拠点としているようだ。17章にもわたってあらゆる分野の日本の問題を詳述してくれているが、諸悪の根源である官僚と抜き差しならない関係を堅持しているのが著者の出自の国家だというのは皮肉だ。原発は軽く触れられているだけで米軍基地の話は皆無で官僚制の屋台骨である日米合同委員会の影もないのはそういった背景によるものだろう。写真はゼミ旅行での香川漆器体験で造った漆の箸。面白い体験だったが犬を線で描いたのは失敗でずらっと並んだ25膳のなかでもひときわ精彩がない。犬は鬼と違って描きにくいのだ。戒めのためにも大切に使い続けて行く。今年こそは少しでも世の中もよくなりますように。

2017年の終わりに相応しい暗く重い写真は今年病没した田原桂一が80年に撮った田中泯。原美術館での展覧会は写真可だった。田中泯はワークショップとして90年前後に設計した飲食空間で何度か踊っている。宇田川町の[from DANCE]に使った農業用温室は彼の白州のかつての拠点に移築提供している。そうした縁もあって白州の拠点には何度も足を運び共に飲んだこともあるが例外なくおそろしく緊張感のある宴だったことを記憶している。高価すぎて年末の断捨離を免れたそのころ私がふとしたことから購入してしまった田原桂一の豪華世紀末本の中身は暗い。そんな二人のコントラストの強いモノクローム作品は見応えがあった。その中でこのボルドーで撮られた写真がひときわ印象的だったのは背景の空間のただならぬ雰囲気によるものだろう。調べてみるとナチスドイツが二次大戦時に造ったUボート繋留のためのコンクリート構造物。爆撃に耐えられるよう屋根スラブの厚さが何メートルもあるので戦後も解体できずに残っているのだそう。二人のために在るような特異な空間だ。チェルノブイリの棺と同じように人間スケールを逸脱している。ググっても住所は分からなかったが航空写真で川沿いの異様な大きさの構造物を見つけるのは簡単だった。ワイナリー視察で
2009年にボルドーに行った時にジャン・ヌーベルのホテルには足を延ばしたがもっと近くにあったこれは存在すら知らなかった。無念。去年白州で撮られた数点がそのほかの80年前後の写真よりはるかに柔らかいのは二人の成熟に因るものだろう。ほっとする。観に行った前日に実は田中泯はこれらの写真の中で踊っているのだが私は
[culvert terrace]の宴の方を選んだ。ついていないこともたまにはある。
2017年の最後の日。[doglog]の平均の一日クリック数は昨年比で漸増4500。みなさん、ありがとうございます。2018年も引き続き、よろしくお願いいたします。

洗足池で鳥を楽しんだ後は[洗足池の集合住宅]で高校同期の宴。ペントハウスからテラスに繋がる細長いデッキが宴のための空間。内と外の仕切りの部分の白いカルバートが中間領域になっているので勝手に[culvert terrace]と呼んでいる。同期会の準備をきっかけとした集まりからここ十数年よく飲んでいる仲間が集まった。この建築もその集まりから生まれたようなものだ。設計した空間でこうして仲間と飲めるのは最上の幸せ。みなさんありがとう。冬はオープンエアというわけにもいかないのでこの空間の本領発揮は春になってからかな。

柿の木に群がるムクドリたちは池の端の枯木立を根城にしている。木が立っているところは出島のようになっていて水面がまわり込んできている。今年の3月にカワセミと出会ったのはここなのだが夕方が近づいているしまったく期待はしていなかった。木の足もとで何やら啄んでいるムクドリやヤマバトに目を移した時に小さな鮮やかな碧に気づいた。カワセミ発見。いい写真が撮れた。

明るい西の空を背景に生まれた柿の木のシルエット。ほとんどモノクロームの柿の実にとりつくムクドリの影絵。

池から突き出た杭はユリカモメのお気に入りの場所。陽が低くなってきたところの穏やかな波紋が美しい背景になった。