Bob Dylan
Bob Dylan2016年ツアーの始まりは東京オーチャードホール。2010年2014年はライブハウス立ち見だったので2001年3月以来のホールでのライブということになる。およそ50年ほど昔に好きになったPPMのレパートリーに彼の曲が何曲かあったのがディランとのお付き合いの始まり。PPMとディランは当時同じユダヤ人マネージャーで、とっつきにくい音楽をPPMが優しくオブラートに包んで大衆化する戦略にまんまとひかかったひとり。数年で一線から姿を消したPPMとは違って、もう50年も最前線を走り続けているのだから、この出会いはラッキーだったとしか言いようがない。予想を覆すのが身上だったセットリストはものの見事に定型どおりでデジャヴュなのだがThat Lucky Old Sunが付け加えられたのはある意味サプライズ。2000年までに27回演奏されたあとShadows In the Nightのスタイルで去年1度登場しただけのレア曲なのです。重くかつしなやかなリズムセクションが打ち出す骨太のロックは微妙にアレンジを変えるなどの手が加えられますますタイトに磨き上げられ思わず身体が動いてしまう。それらの緊張感にばらばらに挟まれた古き佳きアメリカの歌は8曲。オーチャードホールの柔らかい椅子に身を沈め、幸せなめぐり合わせに感謝しながら、柔らかく芳醇な音楽に心を委ねました。タイトとルーズの繰り返しが心地よく久しぶりに音楽の世界に我を忘れました。バンドとしての成熟度が秀逸。いかに怪物ボブと言えどもピークに近いはずだから、できる限り聴いておくべきかなあ。外に出ると熱くなった体にほどよい柔らかな冷たい雨。渋谷の街は若者や他所の国の人たちで妙ににぎわっているけれど、今の私には戦後日本の醒めた現実が重ね焼きになってしまって、この素晴らしい音楽が植民地を文化的に懐柔する作戦の一環であるという不都合な真実までもが鎌首をもたげようとしている。なんとも複雑な夜。
2016/04/05(Tue) 12:14:24 | doglog