月に叢雲

8月27日の高校同級生との横浜歩きの成果のひとつはF君が持っていた山本義隆の『福島の原発事故をめぐって-いくつか学び考えたこと』との出会い。購読紙の書評と広告を主とする私の情報網からは漏れていました。「日本における原発開発の深層底流」「技術と労働の面から見て」「科学技術幻想とその破綻」の3章立てで情緒に流れることのない冷静な考察が展開されています。引用されている古今東西の多様な文献の中には岸信介が1957年当時を回想する回顧録(1983年出版)も含まれています。

「現憲法下でも核兵器の保有は可能」という私の発言は、日本政府の見解として公式記録にとどめられることになった。私は憲法解釈と政策論の二つの立場を区別し、それぞれを明確にしておくことが日本の将来にとって望ましいと考えたのである。この憲法論は今日なお有効に作用している。

国土の狭い地震国に54基もの原発を有し、高速増殖炉やMOXまで導入している現状が、ただエネルギー政策によるものではないことを、みごとに語っているのではないでしょうか。科学技術史を紐解きながら科学技術としての原子核工学を未熟であると断罪する論の展開には説得力があります。今回の原発惨禍が偶発的なものではなく近代史の流れの中の必然であると理解すべきなのでしょう。今の私たちにとって撒き散らされた放射性物質の除染が最優先課題のひとつであるのは言うまでもありませんが、除染とは言ってもただ放射性物質を移動させるだけ。有機水銀も亜酸化鉄もダイオキシンも科学技術により無毒化することは可能でしたが、放射性物質を無毒化する術はありません。半減期による毒の減衰に身を任せるほかないのが実情です。21世紀の人類は核融合反応を安全に扱う技術を持っていないことをあらためて確認しました。写真は仲秋の名月間近の「月に叢雲」。私たちに覆いかぶさる暗い重い雲を払いのけるのは私たちのほかにはありません。
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2011/09/12(Mon) 06:16:22 | doglog
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木下道郎 ・ 建築家
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