Dylan as he is

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Bob Dylan 4年ぶりの来日公演。東京、札幌、名古屋、福岡が終わりあと大阪3回を残すのみとなりました。2012年まではセットリストが変動制だったのですが、どういうわけか2013年は固定セットリストになっていました。気まぐれなボブのことですし東京だけで9回もやるのですからまた変動制に戻ることも考えられたのですが蓋を開けてみればほとんど完全に近い固定制。例えば2010年の東京7回で58曲の異なった曲が聴けたのに対し今年の最初の7回ではわずかに21曲。前回来日時のような多様な曲を体験する楽しみはなくなってしまいました。日本公演17回全部参加という何人かの知り合いをわずかにうらやましく思いつつ自らを納得させています。去年後半の欧州ツアーの中ではローマの2日間だけアンコール以外の全曲がツアー初演という椿事もあり、「ローマの奇跡」の再現を祈っているファンもいます。今のところ14回でわずか22曲。サプライズがあるとしても最終日のアンコールくらいかな。
演奏は4年間で飛躍的な変貌を遂げています。リズムセクションはひときわタイトに固まり、余分な装飾音は削り落とされ、ボブ自身のギターは皆無となり、歌唱そのものに焦点が合わせられています。開演前のBGMがまったくない(前回はアーサー・アレクサンダーやケルアックのOn the Roadの朗読が流されていた)、MCなしでいきなり演奏が始まる、ディランにスポットライトがあたらない、バンド紹介がない、終演後の挨拶をしないという削ぎ落としの演出が、枯淡と言っていいほどシンプルでありかつ重く力強い音楽をさらに強固なものにしています。固定の19曲のうち2012年の最新盤からの6曲を含め13曲が2000年以降の作品で、誰でも知っているような有名曲はアンコールの2曲のみで、しかも聞き間違ええるほどに大胆にアレンジされているという選曲は、過去ではなく現在の自分で勝負するという堅固な意志の表れです。70を過ぎて「神様」「御大」の遺産を捨て去り、新たな表現行為に挑戦する姿勢には敬服するしかありません。見事に刺激的なライブでした。40年以上前にたまたま惚れ込んだ歌手がいまだに現役でいることに感謝。
ライブでの演奏が質の高い緊張感を保持するためには熱い聴衆の存在が不可欠です。今回のライブがスタンディングで2000人前後のキャパであり、聴衆の反応が伝わりやすいことがディラン・バンドのノリに大きく影響したのは確かだと思います。私は運よく4回とも前から2〜3列目で臨場感の波に乗せていただきました。毎年90回前後のライブを繰り返している中でこのようなハコは日本だけ。私たちはラッキーだと言えるはずです。演奏前の60分とインターミッションの15分の立ち待ちは周りの人たちと話していればたちまち過ぎてしまいます。スウェーデンから来た男性は初ディランが16歳の時のワイト島とのこと。「60歳でしょ?」と間髪を入れずに尋ねると「あたり!」。この日は左隣が知り合いの東京ボブさん。前にはディランを追って欧州まで行ったというほどのファンの割には可愛すぎる女の子。右隣りがやっとお会いできたボブ・ディランの追っかけ方ブログの管理人さん。大いに盛り上がりました。この日はなんとライブ初演の曲が登場、周りの筋金入りのツウたちやあのヘッケルさんでさえ曲名が判らなかったほど珍しい曲なのですが、なんと私はHuck's Tuneだとわかってしまい鼻高々(笑)。別の日には演奏途中でサウンド・トラブルが発生したおかげでディランのピアノ・セッションを体験。20分ほどの中断の間を持たせるのに御大自ら寸劇まで披露してくれました。沽券にもかかわりかねない緊急事態を飄々と流し切る懐の深さは彼の人柄によるものなのでしょう。実はいいヒトなのです。
会場は都市のコンテクストから逸れてしまった味気ないお台場にあってZepp DiverCityという寒い名前がつけられています。写真は会場前に鎮座するマルク・クチュリエの作品「自由の炎」La Flamme de la Liberté。欧州の都市はこういうモノを核としてできあがってきたのかもしれませんが、お台場では巨大ガンダムをはじめとする客寄せオブジェの一つでしかありえないでしょう。夕陽が似合っていました。これがディランに会える最後かもしれないという寂寥感にこの写真を寄り添わせることにしましょう。
2014/04/21(Mon) 09:35:12 | doglog

Re:Dylan as he is

自身がかかわってきた音楽の集大成ということでしょうか。「作品」という概念はもう消失していますね。からだに合わせて表現方法を変えていく、そのための音楽を再構築する、という発想がすごい。これからの変化が楽しみです。
[doglog](2014/04/22(Tue) 10:13:47)

Re:Dylan as he is

4/4に行きました。演奏は面白くて、改めて特異な世界を築き上げたとものだと思いました。何年後かにまたライブで聴いてみたいなぁ。
guest(2014/04/22(Tue) 08:15:56)

Re:Dylan as he is

コメントありがとう。今日から3日間大阪でライブ。行きたかったなあ。
[doglog](2014/04/21(Mon) 14:01:56)

Re:Dylan as he is

素晴らしいボブ・ディランのライヴ体験の感動がビシビシ読むこちらに伝わってきます。ありがとう!^_^
Emmaus(2014/04/21(Mon) 12:16:47)
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木下道郎 ・ 建築家
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