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涼子

2年ほど前、阿部勤さんのフェイスブックに「涼子が帰ってきた」で始まる一連のコメントが連載された。夢の中のはなしであるとの断り書きがどこかに消えてしまうほどのリアリティに弄ばれて涼子はラブラドールのトンボと共に私の中で一人歩きをし始めた。犬の散歩のために訪れるイケメンの韓国人青年には疎ましささえ感じた。その時に阿部自邸の「中心のある家」で撮影が行われていた映画「蝶の眠り」がやっと公開された。2度空間体験をさせていただいているあの魅力的な建築空間で撮影された映画を観ないわけにはいかない。主演は中山美穂で私の理解では彼女はアイドルだし、タイトルには甘い抒情が漂っていて、ポスターなどからも軟弱なメロドラマの感じがする。ま、建築を観るのだな、と覚悟していたのだが、見応えのあるいい映画だった。全篇を通して「中心のある家」が登場するから主役は建築かもしれない。あの建築が映画の舞台として魅力的なのは、積み重ねられた永い時間が丁寧に写し取られているからだと思う。川崎毅の陶芸の街(写真:2017年に阿部勤宅で撮影)もさりげなく登場。安心して眠っているさまを韓国語で「蝶の眠り」と言う、と映画の中で種明かしされる。主題は重苦しいけれども、記憶を失くした人や動物たちが集まる森が遠くにあって、そこではかつて愛し合った相手のことは分かるという一抹の救いも用意されている。上映は明日17日までらしい。

kinoshita
2018/06/16(Sat) 08:22:04

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